2010年のNHKによる国民生活時間調査によると日本人の平均睡眠時間は、7時間14分です。しかし、中には睡眠時間が6時間未満で十分であるショートスリーパーがいることがわかっています。
睡眠時間をできるだけ短くすれば、そのぶん多くの仕事や勉強ができると思うかもしれませんが、最近の研究で睡眠時間にも遺伝子が関連することが明らかになってきています。
今回は睡眠時間と遺伝子に関する情報をわかりやすくまとめます。
日本の睡眠時間別タイプの割合
まず日本人の睡眠時間別タイプの割合を見ていきましょう。
6時間未満のショートスリーパー:5-8%
9時間以上のロングスリーパー:3-9%
6-9時間のバリュアブルスリーパー:80-90%
この割合からわかるように、日本人のほとんどは6-9時間睡眠ですが、一部の方は6時間未満の睡眠時間でも十分なようです。
人によって必要・適切な睡眠時間が異なるのは遺伝子が原因
人によって必要な睡眠時間は異なるといわれており、いくつかの遺伝子によって規定されていることがわかっています。以下に睡眠時間に関連する遺伝子についてまとめます。
①DEC2遺伝子
2009年にアメリカで行われた研究によると寝てもすぐに起きるショートスリーパーの方には、共通してDEC2遺伝子の突然変異を起こしていることがわかりました。
DEC2は、ヒトの体内時計をコントロールしている時計遺伝子ともよばれています。マウスにDEC2遺伝子を組み込むとマウスの睡眠時間が短くなることも証明されています。
DEC2遺伝子が突然変異している場合には、脳の疲労回復や情報処理を普通の人より短い時間で済ますことができるので睡眠時間が4-6時間程度でも十分とのことです。
将来、一般の人でもショートスリーパーになれるようにさらなる研究が期待されています。
②hClock遺伝子
体内時計に関連する遺伝子は、今までいくつか報告されています。日本の秋田大学の研究チームによると、hClock遺伝子の変異によって夜更かしをする傾向にあるかどうかがわかるそうです。
自分は朝に強い朝型か夜更かし傾向にある夜型かわかっている人も多いかもしれませんが、実は遺伝によって決まっているのかもしれません。
hClock遺伝子の変異には、CC、CT、TTの3つのタイプがあり、日本人の平均と比べると、
- CCの遺伝子型:夜更かし傾向が強いタイプ
- CTまたはTTの遺伝子型:夜更かし傾向が弱いタイプ
となることがわかっています。
③PER3遺伝子
日本の国立精神・神経医療研究センターの研究チームは、概日リズムに影響する遺伝子「PER3」を明らかにしました。概日リズムとは、人間を含む多くの生物が約24時間にセットされている体内のシステムのことです。概日リズムが狂ってしまうと、夜寝つけなくなったり、朝起きるのがつらくなったりします。
訓練・努力でショートスリーパーになることは可能か
遺伝子によって睡眠時間が規定されている可能性があることがわかりましたが、睡眠時間に対する遺伝子の要因は30-50%とされています。つまり、半分かそれ以上は環境によって規定されているということです。
そのため、努力によって睡眠時間を徐々に短くし、ショートスリーパーに近づくことは可能です。ただし、後で説明するように睡眠時間が必要な人が無理に睡眠時間を短くすると体に悪影響が起きる可能性があるのでほどほどにしましょう。
実際のやり方ですが、現在7時間の睡眠時間が必要な場合には、最初の3週間は睡眠時間6時間30分、次の3週間は6時間、次の3週間は5時間30分、次の3週間は5時間というように、3週間ごとに30分ずつ睡眠時間を短くして体を慣らしていきます。
しかし、医学的に睡眠は脳と体の休息に必要な行為なので、無理して睡眠時間を短くするのはやめましょう。
睡眠不足は遺伝子発現に悪影響を及ぼす
例えばDEC2遺伝子に突然変異がある方は、睡眠時間が短くても精神的ストレスは少ないと考えられます。しかし、例えば睡眠に7時間必要な方が睡眠時間を短くすると体に悪影響を及ぼす可能性があることが報告されています。
今回イギリスの研究チームによる報告では、毎晩6時間以下の睡眠で1週間を過ごすと炎症や免疫系、ストレスに関連する711の遺伝子発現に異常をきたすことが明らかになりました。今まで報告されているいくつかの研究では、すでに睡眠不足が肥満や心臓病、認知症と関連することはわかっています。
適度な睡眠時間は人によって異なりますが、無理をして睡眠時間を短くすることは体によくないようです。
睡眠障害などの関連性
睡眠障害とは、なかなか寝付けない、寝ても途中で起きてしまう、早朝に目が覚めてしまうなどの症状をさします。うつ病や不安神経症などの精神疾患に伴うことも多いので、遺伝との関連が指摘されていますがまだ詳細は明らかになっていません。今回は現時点で睡眠障害と遺伝の明らかな関係が認められた病気について紹介します。
①致死性(ちっしせい)家族性不眠症
病名に致死性とついているように、この病気は40-50歳代で発症すると徐々に眠れなくなり、最後は全く眠れなくなり死に至ります。世界でも珍しい病気ですが、日本では数家系で報告されており国が難病として認めています。治療法はまだ見つかっていません。
プリオン蛋白遺伝子の178番目に異常を認めることがわかっており、発症した患者さんの脳には異常なプリオン蛋白が蓄積します。ただし、遺伝子に異常があっても発症しない方もいることがわかっているのでまだ解明されていないことが多い病気といえます。
②ナルコレプシー
ナルコレプシーは、突然眠くなったり、寝入りばなに金縛りや幻覚のような症状を起こすことがある病気です。
ナルコレプシーは複数の要因によって起こる多因子疾患と考えられていました。しかし、東京大学の研究チームによって「CPT1B」遺伝子の近くに位置する変異がナルコレプシーと関連することが発見され、ナルコレプシーには遺伝が関連している可能性が明らかになりました。
睡眠に関する遺伝子の検査方法
睡眠障害など病気に関連する遺伝子は病院で測定することもできますが、まだ研究段階のものも多くどこの病院でも検査できるわけではありません。また、致死性家族性不眠症の場合には遺伝子検査を行って、異常があることがわかっても予防法や治療法はないため、測定する時には慎重に行う必要があります。
一方で、睡眠時間の傾向や夜更かし傾向にあるかなどはインターネットで遺伝子検査キットを購入し、検査することができます。事前に睡眠に関する検査項目があるか確認するようにしましょう。
まとめ
睡眠に関する遺伝子は、毎日の睡眠時間に関連する遺伝子だけでなく、睡眠障害とよばれる病気と関連する遺伝子があることがわかりました。睡眠時間は遺伝の要素が約50%程度あるため、自分に合った睡眠時間はすでに決まっているのかもしれません。
無理に睡眠時間を短くすると体に悪影響を及ぼすことがわかっているので、自分に合った睡眠時間を確保してみてください。
<参照サイト>
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25201053
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25469926
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20140723/408577/?P=5
http://www.nikkeibp.co.jp/article/nba/20090824/176026/?rt=nocnt
http://www.taiyou-clinic.jp/blog/archives/1262
http://www.nanbyou.or.jp/entry/51
http://www.humgenet.m.u-tokyo.ac.jp/research/1-1.html
http://www.surrey.ac.uk/fhms/research/centres/ssrc/index.htm